In Order To Stay Independent 「第2回及び第3回新株予約権付社債並びに第24回及び第25回新株予約権の発行についての感想 No. 3」

調達資金の使用目的について 

 

 今回の増資の使用目的について考える前にまず、今回の IR で明らかになった「前々回増資」と「前回増資」で調達された資金の使用状況について確認したいと思います。

 

第1回転換社債型新株予約権付社債並びに第20回新株予約権、及び第21回新株予約権

 

➀「PuraSINUS Gel(癒着防止材)の製造及びプロモーション/販売体制構築に関する費用5億円」

 

 これは前々回の増資において最も優先された使用目的でしたが、無事満額が調達され、その全額が現時点で既に充当されています。米国鼻科学学会でのブース出展や、全米の有力病院の KOL への製品の紹介や試用のための提供費用等に使われ、3-D Matrixの発表(決算説明会資料)によれば、極めて良い反応を受けたとのことですので、この資金は効果的に使われたと評価できるでしょう。

  また既にアメリカの販売網の構築がかなりの所まで行われていることも推測できますが、残念なことに、今回の COVID-19感染症拡大によって販売網の完成、そして本格販売の開始までは至っていないと予想されますが、この混乱がある程度鎮静化すれば、また販売に向けた動きが再開されることが期待できます。

 

➁ 「PuraDerm(創傷治癒材)の製造及びプロモーション/販売体制構築に関する費用3億円」

 

 こちらも満額の調達に成功、その全額が充当済みです。

 製造と販売体制の構築は、➀の PuraSinus と重複すると思われますので、この金額の多くは KOL による臨床研究とプロモーションに使用されたと思われます。

 

➂ 「本止血材及び研究開発中パイプライン用の原材料調達費用5億円」 
 満額の調達に成功、全額が充当済み。(これに関しては後で詳しく述べたいと思います)

 

➃ 「日本におけるその他の外科領域での本止血材の製品化に向けた開発費用(治験費用及び申請関連費用)5億円」

 

 満額の調達に成功、現時点で3億円(60%)の充当。

 「その他の外科領域」はおそらくは「心臓血管外科領域」が中心となっていると思われます。(腹腔鏡治療をターゲットとする「消化器外科領域」はその後に来るはずです。) 具体的には「前臨床試験(動物試験)の実施」、「CROへの委託費用」、「実施医療機関への委託費用」となっており、60%の充当率から考えて、現時点で PMDA との間で治験プロトコルに関するすり合わせが終了し次第、治験開始が可能となるという段階まで来ているのではないでしょうか。

 

➄ 「ドラッグ・デリバリー・システムの研究開発費用(核酸医薬、BNCTの製造及び研究開発費用)7億円」

 

 調達額は1億4500万円(20%)にとどまり、その金額は現時点で充当済み。

 トリプルネガティブ乳がんに対するがん治療薬であり、siRNA核酸医薬品でもある TDM-812 の治験の再開に、想像より時間がかかっていた理由の一つはこの資金調達が未達に終わったことでしょう。広島大学の miRNA核酸医薬品の治験は今年度(2020年)に開始予定であり、まだ時間的な余裕はありますが、TDM-812 の治験は一刻も早く再開することを 3-D Matrix 側も切望していたはずであり、この増資で必要額の調達に失敗したことは残念だったはずです。

 

➅ 「欧州における粘膜隆起材の研究開発費用 1億3900万円」

 

前々々回の増資で3億円調達予定だったが、5800万円の調達に終わっていたもの。今回は満額を調達、全額を充当済み。

 

前々々回増資と合計で 1億9700万円の調達額で終了していますが、日本での粘膜隆起材(粘膜下注入材)の開発方針の変更(後発医療機器としての開発が認められたため、治験の実施が不要になったこと)に伴って、欧州での開発にも変更があったと思われます。欧州での治験そのものは必要であることに変わりはないはずです。


 

第23回新株予約権

 

➀ 「オーストラリアにおける販売及びマーケティング体制の強化に関する費用2億円」

 

 満額調達に成功、現時点で5千万円(25%)を充当済み。

 おそらくですが、この2億円の多くは「消化器内視鏡領域」の治験や販売プロモーションに使用される予定だったものが、今回の COVID-19 による混乱によって予定が進んでいないために、充当率が低いのだと思われます。オーストラリアの状況はかなり鎮静化しており、今後早い時期にストップしている治験などが行われれば、残りの資金も充当されていくはずです。

 

➁ 「米国における本止血材とその他のパイプラインの研究開発及び承認申請に関する費用3億円」

 

 満額を調達、現時点で5千万円(16.6%)を充当済み。

 この回の増資で最も注目されたのはこの使用目的でした。これはアメリカで止血材(TDM-621)の 510(k)申請に使われる予定の資金となります。調達額は目標に届いていますが、16%という低い充当率からすると、残念ながらまだ進捗状況は初期段階にとどまっている可能性が高いです。今現在 FDA は COVID-19 対策に忙殺されているはずであり、事前の相談なども十分に行われていないでしょうし、前臨床試験すら中断しているという可能性もあります。これは COVID-19 の混乱が一段落してからとなるでしょう。

 

➂ 「本止血材とその他パイプラインの原材料調達及び製造原価改善とその開発に関する費用4億円」

 

現時点での調達額 1億7300万円(43.5%)、充当額 1億円(予定額の 25%)。 (詳細は後で)


➃ 「ドラッグ・デリバリー・システムの研究開発費用(核酸医薬、BNCT の製造及び研究開発費用)5億5600万」

➄ 「日本における本止血材の上市に向けたプロモーション/製造販売体 制構築及び市販後調査に関する費用2億円」

➅ 「運転資金1億9400万円」

 ➃、➄、➅の3つに関する調達額は、いずれも0円。


 それでは今回の増資の使用目的について述べてみたいと思います。

 

第2回及び第3回新株予約権社債並びに第24回及び第25回新株予約権

 

➀ 「本既存証券の買入資金10億9500万円」

 

 これは前回の転換社債ロールオーバーと、21回、23回新株予約権の残りの消却に使用されるもので、何かを生み出すものとは言えません。とはいえ、これによって転換社債の現金償還を行わずに済むことで資金ショートを避けられるわけですから、極めて重要な使用目的と言えるのではないでしょうか。

 

➁ 「本止血材とその他パイプラインの原材料調達及び製造原価改善とその開発に関する費用12億7700万円」

 

 前回と前々回の増資でもかなりの額が原材料の調達に充てられていました。 PuraStat は医療機器です。医療機器の販売において絶対に許されないのは、医療機関が必要とする時に製品を届けられないことです。単に信頼が失われるというだけではなく、場合によっては患者の生命にかかわる可能性すらあります。従って、必ず余裕を持った生産計画を立てる必要があり、そのためには十分な量の原材料を常に用意しておく必要があります。

 とはいえ、予定販売額を何倍も上回る製品を製造することは、いたずらに原材料費を膨らませることになります。原材料である RADA16の使用期限は3年ではないかと推測されていますが、だとすると少なくとも、原材料の調達から3年以内に製造し、販売することを前提として計画が立てられているはずです。
 現時点で、原価率は 80%程度。その内原材料費が占める割合は、前期の有価証券報告書によれば、原価の 57.1% であり、現時点において売上の約45% が原材料費ということになります。

 あくまでも前期末の棚卸資産の額などから推測した値に過ぎませんが、今期末において前期の原材料の残りが8億円分程度と試算、それに加えて前々回の増資で5億円分が追加。さらに今回の増資による原材料の購入のための資金調達額が13億円弱だとすれば、今回の増資終了時点でざっと25億円分程度の原材料が準備されることになるのではと考えています。従って、仮に現在の原価率で計算すれば、その倍の50億円分を上回る量の製品製造が可能となると思われます。(ただし、製造ラインの改良に必要な額がここから差し引かれます。さらに、今期末の時点で使用期限となり、廃棄を余儀なくされる分も差し引く必要がありますが、原価率の改善を考慮すれば、それ以上の製品製造も可能かもしれません)

 50億円分の製品と聞けば、過大な量の原材料の調達に見えてしまうかもしれませんが、今期に発表された中期経営計画によれば、来期の製品販売の目標額は 17億7400万円、再来期の目標額は 53億5000万円となっています。ならば、50億程度の製品は、再来期の途中で全て販売されることになります。これなら、決して過大な調達額とは言えません。

 私は、今回の増資で13億円弱(マイナス製造ラインの改良に必要な額)分の原材料を調達すること自体、来期と再来期の売上に対する経営陣の自信を示すものだと考えています。

 

➂ 「日本における本止血材の上市に向けたプロモーション/製造販売体 制構築及び市販後調査に関する費用2億円」

 

 これは前回の増資で調達できなかった分です。今期中には止血材の製造販売承認が予定されています。原材料の調達の次に優先される、つまりパイプラインの進捗に関して最優先の使用目的がこれであるというのもまた、今期中の承認に対する自信の表れだと思われます。


➃ 「カナダにおける販売体制構及びマーケティング関連費用1億7000万円」

 

これはオーストラリアにおける経験を活かすものです。

 オーストラリアでは大手代理店による販売が行われたものの、なかなか予定通りに販売が進まず、自前の営業マンを雇用して直接販売活動を行うようになって初めて販売が軌道に乗りました。カナダにおいても、地元代理店に任せきりにするのではなく、それをサポートする営業人員を最初から用意することで売上の伸びを短期で達成しようとするものでしょう。


➄ 「米国における販売体制強化に関する費用1億6700万円」

 

これは前々回の増資による資金調達で販売網の構築に加えて、営業人員の増員を図るためのものとされています。ポイントは「増員」という点。販売の当てがないのに販管費を増加させる増員を行うわけがありません。これは PuraSinus の販売に予想以上の手ごたえを感じたからこその資金調達のはずです。

 

➅ 「事業運営費用7億5300万円」

 

➆ 「ドラッグ・デリバリー・システムの研究開発費用(核酸医薬、BNCT の製造及び研究開発費用)5億5600万円」

 

 これは前回、前々回の増資において調達できなかった分を補うものですが、今回の IR において、より具体的な使用目的が説明されています。
 「2020 年5月から 2023 年7月までの期間において、核酸及びペプチドの購入、非臨床での有効性の検証試験実施、安全性試験の実施、治験薬の製造、治験の実施等のために充当」
 つまり、聖路加国際病院で開始予定の TDM-812 の治験費用(治験薬の製造)、今年度に予定される広島大学との共同研究である悪性胸膜中皮腫を対象とする miRNA 核酸医薬の治験費用です。来期中に DDS 分野における大きな進展がみられることは、もはや確実だと言えます。

 財務的に厳しい中で、DDSの開発に十分な資金を充てる意味は何でしょうか。それに対する答えは IR のこの一文だと思います。
 「なお、核酸医薬及びドラッ グ・デリバリー・システムに関しては、早期の治験終了後に製薬会社等へのライセンシングを視野に入れ開発を進めております。」

 

 

 以上、今回の増資によって調達される資金の使用目的について考えてきました。事業運営費用はともかくとして、それ以外の使用目的は、どれもこれも全て、3-D Matrix という企業の成長にとって不可欠なものだと断言できます。無駄な資金など一つたりともありません。

 

 COVID-19 が発生していなければと悔しく思う気持ちがないとは言いません。しかし、それを理由にして開発パイプラインや販売計画をストップさせるのではなく、必要額を転換社債と MSワラントによって調達し、独自性を保ったまま、それを進捗していくという今回の経営陣の選択を、私個人は評価したいと思います。 

 

In Order To Stay Independent 「第2回及び第3回新株予約権付社債並びに第24回及び第25回新株予約権の発行についての感想 No. 2」

今回の増資の意義について

 

    今回の増資を不要だと考えるホルダーはおそらく一人もいないでしょう。

 

 COVID-19の感染拡大により、3月から4月にかけてPuraStat の主要市場であるヨーロッパの大半の国では国境封鎖や外出制限などを強制するロックダウンが行われています。また、医療機関のほとんどが COVID-19 対策で手一杯となり、医療崩壊の一歩手前という状況下で、PuraStatを使用する消化器内視鏡を使った治療はほどんど行われていないのが現状です。
 ヨーロッパの大半の国はピークアウトを迎えており、4月中には感染拡大は一段落し、ロックダウンの本格的な解除も5月の中旬あたりから開始する旨各国が発表していますが、経済活動を含む社会状況が混乱前の状況に戻るのには数か月から、場合によっては数年かかると予想する専門家が多数派です。

 医療活動は、それと比べれば短期間で正常な状態に戻るはずですが、それでも数か月から半年程度は必要でしょう。となれば PuraStat の本格的な販売活動が再開されるのも、同様に数か月から半年後となる可能性が高く、残念ながら、来期のヨーロッパにおける売り上げは目標を大きく下回るのは確実と言えます。

 

 もう一つの PuraStat の主要市場であるオーストラリアも、ヨーロッパと比べれば感染者数ははるかに少ないものの、感染を防ぐための外出自粛や集会の禁止、レストランなどの営業規制などが行われており、医療においても、医療従事者への感染をさけるため、不要不急と判断される手術などはできるだけ延期するよう各種学会が推奨しています。
 となれば、オーストラリアにおける主要適応領域である耳鼻科領域の手術の件数も減少しているでしょうし、肥満手術も同様と想像されます。従って、オーストラリアにおいても来期の売上は予定より減少するでしょう。

 さらに PuraSinus の本格販売開始が期待されたアメリカは、ピークアウトは迎えようとしているものの、状況の安定までは今しばらくの時間が必要であり、販売網を整備するのもままならないという状況が続くことが予想されます。売上の開始そのものが来期の下期にずれ込む可能性も高いでしょうし、販売プロモーションの前提となる市販後治験の開始もかなり遅れそうです。

 

 以上のことから、来期の PuraStat の売上は目標を大きく下回ると予想されます。

 

 今期末時点でどれくらいの現金が残っているのかは、様々な憶測が飛び交っていますが、6億から7億程度という数字が最も可能性の高いものだと思われます。仮に来期上期の売上が全くなく、同時に製品製造は予定通りに行う、さらに販管費の減少もなく、研究活動もこれまで通り続けるとすると、この現金は3ヵ月弱で尽きてしまうことになります。

 仮に、ヨーロッパでは販売活動を一切 FujiFilm Europe に任せ、3-D Matrix は製品供給だけに特化し、オーストラリアでは営業人員を全員解雇し販売活動を一切ストップさせる。同時に治験を含む研究活動を一切中止するなら、上期の半年ぐらいは乗り切れるかもしれません。その間に止血材の国内承認など各種材料によって株価が戻るのを待ち、既存の増資の再開によって財務状況が改善するのを期待するというのも一つの手段です。

 

 しかし、それは正しい選択なのでしょうか? 

 

 例えば、オーストラリアでは直販が行われていますが、自力販売の経験が短く、販売ノウハウの乏しい 3-D Matrix にとってベテラン営業マンこそが販売網拡大にとって最も大切な資源となります。その営業マンを、増資を避けるために切り捨てるという選択に理はあるでしょうか。営業マンを失うというだけでなく、その営業マンの開拓した販売先医療機関の信用も大きく毀損するでしょう。失った信用を再び取り戻すにはどれくらいの時間がかかるでしょうか。

 また資金ショートを理由に治験をストップするなどということがあれば、それを再開するのはそれほど簡単な事ではありません。単に治験計画変更届を提出すればよいなどという問題ではありません。聖路加国際病院で始まった TDM-812 核酸医薬の治験だけではありません。ヨーロッパの次世代止血材の治験は前臨床試験を終了し、人臨床に移る直前段階のはずです。当然ながら、実施医療機関との話合いはかなり進んでいるはずですが、それを資金難を理由に撤回することがどのような影響を与えることか。その他にもアメリカやオーストラリアにおいて、各種市販後治験が予定されていますが、それもすべてあきらめ、一からやり直すという選択がどれほどのダメージを今後の展開に与えることか。

 

 それなら、大手企業に資本の一部を引き受けてもらえばいいのではないか。完全子会社ではなく、持分法適用会社になるぐらいなら問題はない。 25% 程度の新株を発行し、取締役の一人でも受け入れて、資金を援助してもらえれば今後も安心だ。そのように考える株主が実は多数派なのではないかと考えることもあります。自己組織化ペプチドのポテンシャルから考えて、手を挙げる企業が1つもないとは考えにくく、可能性は十分にある話です。

 

 しかし、これまでも主張してきましたが、大手企業の傘下に入るということは、この会社の持つ独自性を売り渡すことです。親会社(または投資会社)のパイプラインと重なる可能性のある開発は極めて難しくなるでしょうし、親会社が 3-D Matrix のポテンシャルを自らの開発計画よりも優先するなどということはまずありえません。

 自社の基盤技術のポテンシャルと自社製品の可能性を信じている経営陣が、万策尽き果てて他に手段がないという状況に追い込まれていない限り、相手がどれほど大企業であれ、その傘下に入るという選択を成すとは思えません。仮にその選択をするとすれば、まさに企業存亡の危機にあるということであり、今回その選択を取らずに済んだということは、まだこの企業には余裕が残っている証拠だとは言えないでしょうか。

 

株価への影響について


 また今回の増資は、株価に対しても必ずしもネガティブとは言えないでしょう。

 ここ数か月の株価の下落は、直接的には COVID-19の感染拡大が原因でしたが、下落率が他のバイオ銘柄よりも大きかったのは、やはり某経済誌が指摘した通り、財務状況が欧州の状況によってさらに悪化し、近々資金ショートが現実のものとなるのではという不安が影響したのではないかと思われます。

 しかし今回の増資により、その資金ショートの可能性はほぼ消えたと言ってよいでしょう。
 
 まず来期の開始時点で CB によって約3億円が調達されますので、9億~10億のキャッシュでスタートすることになります。その後は、仮に毎月200円から300円の株価で 100万株の行使が行われたとすれば、2億~3億円の資金が10か月に渡って追加されていきます。個人的には、新株の行使と市場内売却が進んだとしても、それ以上の株価が維持されるものと期待していますので、調達額はさらに大きなものになると推測しています。
 これに加えて、今期中には止血材と局注材の製造販売承認により10億円の一時金が得られる予定であり、最終的には、来期はもちろん、再来期の必要額の多くもこの増資で調達できるものと思われます。

 

 自己組織化ペプチドという基盤技術と、その技術を製品化した PuraStat や PuraSinus のポテンシャルに期待を抱きながら、財務状況に不安を抱き、3-D Matrix への投資に二の足を踏んでいる投資家、特に財力のある欧米の個人投資家なら、今回の増資はその不安を払拭するポジティブな情報となるはずです。

 

 この推測が正しいかどうかは、5月の行使開始日以降の値動きが示してくれるでしょう。

 

In Order To Stay Independent 「 第2回及び第3回新株予約権付社債並びに第24回及び第25回新株予約権の発行についての感想 No. 1」

 4月14日、やはりと言うべきかついにというべきか、3-D Matrix が大型増資を発表しました。内容としては新株予約権社債(いわゆる転換社債 / CB)と MSワラントの組み合わせとなっています。

 

 今回の増資そのものは大方のホルダーにとって予想済みでした。

 

 まず、今回の COVID-19 による混乱がヨーロッパを直撃、PuraStatの販売がストップしていることが予想されたことから株価が低迷、ついには 第23回の MSワラントの下限行使価格を下回り、行使が止まってしまいました。

 そして何よりも大きなダメージとなったのが、第1回転換社債の CB修正日において株価が下限転換価格を下回り、このままでは社債の一部(2億4千万強)の現金償還を求められかねない状態となったことです。今の 3-D Matrixにとってこの金額を支払うことは不可能ではないまでも、資金ショートの可能性を一気に高めることになり、まさに土俵際に追い込まれることになってしまいます。

 そのような状態ではパイプラインの進捗など望むべくもなく、製品販売においても、欧州は FujiFilm による販売が期待できるものの、オーストラリアでの販売プロモーションや、何よりもアメリカでの販売網の確立がほぼ不可能になってしまいます。

 この状態を解消するためには、何らかの手段による早期の資金調達が不可避であり、手段と規模だけが注目されるという状況でした。

 

 多くのホルダーは大手企業(おそらくはあの企業)を割当先とする第三者割当増資を期待していたことでしょう。そのような中で 3-D Matrix が選んだのは、前回、前々回と同じく ハイツ・キャピタルを割当先とする転換社債と MSワラントでした。大きな希薄化と引き換えに独自性の維持を選択したのです。

 

増資による発行株式の増加数と希薄化率について

 

 まず転換社債(CB)ですが、発行価格が、総額で 1,400,000,000 円 (内訳: 第2回新株予約権社債: 700,000,000円 / 第3回新株予約権社債: 700,000,000円)。 発行に伴って増える株式の数が、上限転換価格で全て株式に転換されたと仮定すると、第2回 CB では 転換価格が 294円で増加数が 2,380,952株。第3回 CB では 転換価格が 325円で、増加数が 2,153,846株、その合計は 4,534,798 株となります。 さらに、下限転換価格で全て株式に転換されたと仮定すると、第2回、第3回ともに転換価格は 155円。株式増加数は 9,032,258株となります。

 次に MSワラントの方は、第24回が7,850,000株、第25回が 2,100,000株 となり、合計で 9,950,000 株の新規発行となります。

 従って、今回の増資による新株の発行数は、最少でも 14,484,798株、最多の場合 18,982,258株という、これまでの増資で発行された数字とはまさに桁違いの新株の発行となる予定です。

 これを 2019年10月31日現在の発行済株式総数 30,037,450株を基準として希薄化率を計算すると、新株発行が最少で済んだとしても希薄化率は 48.22% 、最多となった場合は 63.20% となり、株価に対してかなりのダウンインパクトとなります。

 ちなみに、同IR中で述べられている 76.51% という希薄化率ですが、これは第23回の MSワラントを消却せずに全て行使したと仮定した場合の4,000,000株を追加したうえでの数字ですので、消却が行われることが前提となっている以上、現実化する可能性はありません。


 ただ、この 48.22 ~ 63.20% という希薄率の数字には少々注意が必要です。まず、この希薄化率の基準となっている 30,037,450株という株式発行総数は 2019年10月31日時点でのものです。つまり、この数字には第23回の MSワラントによる増加数 1,831,000株が含まれておりません。4月末日時点での株式発行総数は 31,876,450株ですので、現時点での発行数を基準とすれば希薄化率は 45.44 ~ 59.55% ということになります。

 これに加えて、本来は第21回 MSワラント 90万株と第23回 MSワラントの残りである 2,169,000株の合計 3,069,000株が加算されていたはずですが、これが消却されます。

 さらに、第1回の CBの残債が下限転換価格 291円で株式に転換されていたとすると、さらに発行株式は 3,722,766株が増加したことになります。従って、今回の増資が行われていなかったとしても、結局は、最大で6,791,766株が増加していたことになります。(この場合の発行株式総数は 38,668,216株)

 

 この分を差し引いて考えなければ、今回の増資のスケールを誤解するのではないでしょうか。

 

さて、増資後の発行済株式数である 44,522,248 ~ 49,019,708株はバイオベンチャーとして驚くほどの数なのでしょうか。この数字を超える株式を発行している代表的なバイオベンチャーを列挙してみたいと思います。

オンコセラピー・サイエンス: 176,332,000株
ペプチドリーム: 125,910,000株
ソレイジア: 116,865,000株
アンジェス: 106,989,000株
そーせい: 77,149,000株
リプロセル: 71,406,000 株
ナノキャリア: 66,057,000株
サンバイオ: 51,785,000株

 

 他にも発行株式数が 4000万株台のバイオベンチャーは数多く存在します。従いまして、3-D Matrix の発行数が今回の増資によってバイオベンチャーとして異常なほどの大きさになったという主張には同意することはできません。

 複数の上市品を持ち、世界中で製品の販売を行い、いくつかの市場では独自の販売網を持っているバイオベンチャーの発行株式数としては決して多いとは言えないと思いますし、今後売り上げが予定通りに伸びていき黒字化を達成したあかつきには、逆に少ないというのは言い過ぎかもしれませんが、少なくともごく当たり前の数字にすぎなくなると思われます。


増資により獲得できる資金額 


 まず、第2回、第3回の CB によって調達する資金は 1,400,000,000円ですが、この額の中には第1回CB と 第21回、第23回の MSワラントの残部の消却に必要な 約1,095,000,000円が含まれていますので、実際には差し引きで 約305,000,000円が調達額となります

 

 次に第24回、第25回の MSワラントによって 2,853,642,000円が調達予定ですが、もちろんこの数字は当初行使価格である 309円での計算ですので、実際には当然ながらこれよりも上下することが想像できます。下限行使価格である 155円で計算すると 1,542,250,000円となりますが、今の株価の低迷の主因は COVID-19 による混乱であり、155円まで下がる可能性は非常に低いと思っています。

 第24回の MSワラントは上限価格はありませんので、材料が出たタイミングで上手く行使してもらえれば、309よりもかなり上の株価での行使が期待できますので、30億以上の資金調達も十分に可能だと予想しています。

 期待も込めての予想となりますが、今回の増資で調達できる資金は合計 30億以上となるのではないでしょうか。

 

 この数字であれば、来期中に財務的に行き詰まる可能性は、たとえ COVID-19 による混乱がかなり長期にわたるものになったとしても、ほぼ無くなったと言えると思います。

Beyond the Horizon 3-D Matrix 中間決算説明会動画を見て No. 4

Beyond the Horizon 3-D Matrix 中間決算説明会動画を見て No. 4

 

3.開発パイプラインと進捗

 

【DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)領域の進展】

 

「DDS分野で複数の研究を行っているが、『今今の時点では』マイルストーンは発生していないが、順調に進捗している。」

「特に siRNAの核酸医薬においては、ファースト・イン・ヒューマン試験の Phrase I が終了しているが、これを継続する形で次の治験を準備したい。」

 

ここしばらく決算説明会では DDS の進捗に関しては、社長の口から詳しい説明がなされることはありませんでした。特に、トリプルネガティブ乳がんを対象とした核酸医薬である TDM-812 に関しては、第1相の終了 IR において拡大治験の実施計画を発表したものの、それ以降は詳細な情報は一切ありませんでしたが、今回久しぶりに TDM-812 の進捗に触れたことは注目に値すると思います。

 

昨年あたりから核酸医薬にまた注目が集まり始めています。siRNA に関しても 2018年に、同領域におけるリーディングカンパニーである Alnylam Pharmaceuticals が、初のRNA干渉を利用する siRNA 核酸医薬である Onpattro を上市したのを皮切りに、今年から来年にかけても複数の siRNA 核酸医薬の治験の終了や承認申請が行われることが期待されています。

 

この状況において、トリプルネガティブ乳がんに対する世界初のヒト投与となった TDM-812 の治験再開は、かなりの注目を浴びるはずです。なぜなら、なぜかホルダーからは注目されなかったのですが(笑)、国立がん研究センターから、この第1相治験においての Proof of Concept の取得が発表されているからです。

 

プルーフ・オブ・コンセプトとは「研究開発中である新薬候補物質の有用性・効果が、動物もしくはヒトに投与することによって認められること。ヒトや動物に新薬候補物質を投与し、予定していた通りの効果が出たこと」を意味します。TDM-812 における POCは「RPN2遺伝子の発現の低下確認」だったわけですが、この成功は 3-D Matrix 側からすると、そのDDSである A6K のデリバリーの成功を意味します。

 

つまり現時点では、siRNA核酸医薬における人臨床試験におけるDDS としては、A6K はリポソーム以外では唯一の成功例と言えるのです。

 

この成功のインパクトをさらに大きくするには、広島大学で行われている悪性胸膜中皮腫を対象とした miRNA核酸医薬の進捗も重要ですが、それ以上に TDM-812 の治験をさらに進めることが必要だと思います。残念ながら、国立がん研究センターでの第1相治験は症例数が5件で終了し、中程度の投与量での安全性の確認で終わっています。最終的な安全性を証明するためには高用量での投与がどうしても必要となります。これが終了して本当の意味で第1相が終了したと言えます。

 

DDS 領域においては自社での開発はあくまでも初期段階まで。その後は大手製薬企業へのライセンスアウトを目標としていますが、TDM-812 に関してもそれは同じでしょう。さらに言えば、もしライセンスアウトの可能性が低いのなら、3-D Matrix側からすれば拡大第1相の治験を行う必要性はそれほど高くはないのです。(DDSとしての効果は既に証明されており、広島大での治験も始まることから、費用的にも意味のない治験を開始する余裕はありません。)

 

今現時点において、3-D Matrix と核酸医薬を結びつけることが出来る投資家は、遺憾ながらほとんどいないでしょう。しかし、だからこそ、この領域での進捗は全てポジティブサプライズとなります。siRNAであれ、miRNAであれ、miRNA阻害薬であれ、または BNCT であれ、今期から来期にかけて期待される進捗は、ホルダーにとっても大きな意味を持つものになるでしょう。

 

【主要パイプラインの開発状況(2019年12月現在)】

 

「止血材に関しては、ヨーロッパで勝ち目が見えてきている領域(内視鏡領域)を日米に展開したという成果を得た。」

「グローバルで 2500億の市場に、日米欧で入っていくための足掛かりを築いた。」

「これまではヨーロッパやCEマーク圏だけでの販売だったが、今期の成果として、アメリカにおいて二つの製品を持つことができた。」

「最大市場であるアメリカが販売先として加わったのは大きい。」

再生医療アメリカ)や DDS(日本)における成果は将来的に別地域に横展開を行い、ここから将来の柱が出てくるものと考えている。」

 

 止血材を始めとする「複数の製品を、自らの力で開発上市し、グローバルで販売する」ことがどれほど難しい事かなど、説明する必要もないことでしょう。大手の医薬・医療機器メーカーですら極めて長い時間と、極めて多額の費用を必要とすることを、新興バイオベンチャーが成し遂げようとしていること自体、奇跡とまでは言いませんが、極めて稀なことです。

 

それを成し遂げようとしている事実を高く評価することに、ホルダーの一人としてためらいは感じません。もちろん最終的な評価は、売上が十分な額になり、営業黒字を達成して初めて可能となりますが、それでもそれに向けて大きな期待を抱ける状況にはなっていると思われます。

 

2019年度下期の見通し


➢ 欧州

• 消化器内視鏡領域でフジフイルムを通じた販売を本格化

• その他の領域(放射線性直腸炎内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)等)や ロボティクス向け用途の深耕

• 次世代止血材の臨床試験準備の進捗

 

「欧州において一番大きいのは販売である。富士フイルムが販売を開始、また質の良いリードを大量に確保している。それを確実に売り上げにつなげていき、さらに高い売上の伸びを記録する。」

「そのために、内視鏡の周辺領域や、内視鏡をはなれたロボティクスや腹腔鏡への広がりも進めていく。」

「次世代止血材の臨床試験の準備も着々と進めており、何らかの進展を出す。」


➢ 米国

• PuraSinus(癒着防止兼止血材)の販売開始

• PuraDerm(創傷治癒材)の美容整形領域への適応拡大

• PuraStat(内視鏡用止血材)の承認申請を目標としたデータ収集


➢ 日本

内視鏡用止血材の承認審査の進捗

内視鏡用粘膜下注入材(局注材)の承認申請に向けた準備

• siRNA医師主導治験の再開


➢ その他

• オーストラリアにおける新領域(内視鏡、腹腔鏡)への進出

• カナダにおける販売の開始

 

ここでは「ロボティクス」という言葉に注目したいのですが、当然ながら頭に真っ先に浮かぶのは「内視鏡手術支援ロボット『ダヴィンチ』」です。腹腔鏡手術においては、ますますこのようなロボット支援システムの使用が一般化していくことでしょう。その際の止血は、現時点においては電気メスによる焼灼が中心となっています。

焼灼による止血の危険性が、消化器内視鏡におけるそれと同様だとすれば、PuraStat の活躍の場もまた、同様に存在すると言えるでしょう。

 

 今、ホルダーの目には「止血材」を内視鏡領域で販売を行っている 3-D Matrix の姿しか映っていません。しかし今回、視界の向こうから、再生医療領域から PuraDerm が美容整形領域で使用される姿が近づいて来ました。さらには、DDS 領域においても、霞がかかっていた TDM-812 の姿も再びはっきりと見えようとしています。

 

さあ『視界の彼方』では何が起きているのでしょうか。まだ見えない場所 (Beyond the Horizon)で起きていることに期待できる企業。それこそが、3-D Matrix の大きな魅力だと私は思っています。

 

Beyond the Horizon 3-D Matrix 中間決算説明会動画を見て No. 3

3-D Matrix 2020年4月期中間決算説明会動画を見て No. 3

 

3.開発パイプラインと進捗

 

【吸収性局所止血材の開発(心臓血管外科領域)】

 

「国内での止血材の内視鏡に続く次の領域をどうするかということに関して、心臓血管外科を第一候補として考えたい。」

「理由としては同領域が止血剤市場では3割以上を占める最大セグメントであること、グローバルのトップブランド(Johnson & Johnson や Baxter) の製品が撤退していることで新しい製品が受け入れやすいこと、 そして日本特有の状況として過去の出来事から生体由来の製品による感染リスクに敏感であるため、当局も感染リスクを重視しており、感染リスクを否定できる製品が歓迎されやすく、薬事戦略上優位に働く。」

「ヨーロッパでは苦戦しているが、日本は環境が違うため勝ち目がある」

「今期中に PMDA との対面助言を求める。」

 

ここで注目すべきは、残念ながらヨーロッパの心臓血管外科領域では苦戦中ということを社長が認めたという点ですね。

 

イギリスの同領域の KOL であるサザンプトン大学病院の S. Ohri先生の論文 (Feasibility of a novel, synthetic, self-assembling peptide for suture-line haemostasis in cardiac surgery.) を読む限り、同領域における PuraStat の効能には疑問はありません。

 

ただ、ヨーロッパの心臓血管外科領域では、内視鏡領域とは異なり、老舗の止血剤が今でも大きなシェアを保っています。ただでさえ少ない独立系の医療機器販売代理店が、同領域ではなおさら少ないという状況ですから、どうしても大手の代理店と販売契約を結ぶ必要がありますが、それにはある程度の売上をみせる必要があるという矛盾を解決しなくてはならず、「苦戦」という社長の言葉はある程度致し方のないことではあります。

 

とはいえ、ヨーロッパでは売上の一部は心臓血管外科領域におけるものであり、まったく売れていないというわけではありません。また、イギリスで行われている同領域の市販後治験も終了し、そろそろデータがまとまり結果がでるころです。内視鏡領域における PuraStat の優位性の多くは心臓血管外科領域でも通用するものでもあり、時間はややかかるとしても、最終的には同領域でのシェアも増加していくものと期待しています。

 

日本はヨーロッパとは状況が異なるとはいえ、内視鏡領域と比べれば手ごわい市場となることは否めません。まずは内視鏡領域でしっかりとした知名度と評価を確立し、その後、心臓血管外科領域でも市場を獲得するという、ヨーロッパと同じ戦略を取ることになると思われます。

 

内視鏡用粘膜下注入材の開発】

 

「日本二つ目のパイプライン(内視鏡用粘膜下注入材)も承認申請が見えるところまで来ている」

ヒアルロン酸を先行品とする改良医療機器として臨床試験なしで開発を進めているが、非臨床試験は全て終了した。安全性の問題で本製品がドロップすることはもうない。」

「現在、コマーシャル用の製品の大規模な製造を、パートナー企業である扶桑薬品工業と行っており、今期期末前後に申請を行える予定。」

 

これに関しての感想は「順調」という一言に尽きます。これまでの各製品の原材料である RADA16 とは異なり、本製品は新規配列の自己組織化ペプチドを使用していることから、細胞毒性の有無や接触アレルギーの危険性など、様々な生物学的安全性は、これまでは正式には確かめられていなかったのですが、今回の結果により、この自己組織化ペプチド配列においても生物学的安全性が証明されたことになり、まずは一安心と言えるでしょう。

 

それにしても、この製品や次世代止血材に用いる自己組織化ペプチドの配列については、ずいぶんと秘密主義を貫いていますね。知財戦略ともからんで致し方ないことではありますが、早く知りたいと思います。

 

【止血材の開発(消化器内視鏡領域)】

 

アメリカにおいて止血材の開発戦略が決定せず困っていたが、内視鏡領域での開発を進めることにほぼ確定した。」

「理由の一つ目として、ヨーロッパで内視鏡領域では PuraStat が強いポジションを占め得ることが分かってきたという成功事例がある。」

「先行品が治験無しの 510(k)で承認が取れた。3-D Matrix も後発医療品として臨床試験なしで申請し承認が取れることがほぼ確実にわかった。」

アメリカの内視鏡市場が大きく拡大しており、日本の80万例、ヨーロッパの200万例に対して 120万例ある。オリンパス富士フイルム内視鏡の販売においても、最大の利益は北米市場で得ている。」

「510(k)申請であれば、来年度中には申請が可能。来期末か再来期の頭には承認を獲得し、再来期には製品を市場に投入したい。2年後には本製品がアメリカで売上に貢献する。」

「今年 PuraSinus を市場に投入し、来年は売上に貢献する。再来年は止血材が売上に貢献することになる。つまり、来年、再来年と立て続けに新製品が売上に貢献するという中期経営計画を立てる」

 

今回の最大のサプライズは、この「アメリカで止血材を内視鏡領域で販売する。そのための申請を来年度中には 510(k)で行い、遅くとも再来年には承認を獲得、販売を開始する」という内容でしょう。

北米における止血材の開発戦略は遅々として進まず、多くのホルダーがやきもきしていたことと思います。私もその一人でしたが、アメリカは治験など開発に大きな資金が必要となることもあり、まずは日本市場での成功を見てから、つまり来期から再来期にかけて開発戦略を決定するのだろうと思っていましたので、今回の決定は驚きました。

 

おそらく今回の決定の背後にあるのは、先行品が 510(k)で承認を獲得したことでしょう。先行品が何かは不明ですが、これにより最小限の資金でアメリカ上市を果たせるとなった以上、少しでも早くと経営陣が考えているのは理解できます。

 

アメリカは内視鏡検査はともかくも、手術の方はまだまだ発展途上であり、当然ながら、それに対する局所止血材も独占的なものは存在していません。これは日欧と同じ条件です。もちろん、Hemospray を製造販売している Cook社や EndoClot 社はアメリカの企業であり、ライバルは存在しないわけではありませんが、ヨーロッパでは互角以上の戦いを行えていることからも、アメリカ市場での成功確率は十分にあります。そのためにも、少しでも早く上市を果たし、販売を開始したいということなのではないでしょうか。

 

アメリカには Ethicon( Johnson & Johnson の子会社)という止血剤最大の企業が存在しますが、この企業の止血剤はフィブリン製剤であり、止血効能は互角でも、PuraStat のように後出血予防や創傷治癒が期待できるわけではありません。市場が固まる前であれば、この巨人に対しても互角以上の戦いは可能だと思われます。

 

【創傷治癒材の開発(”PuraDerm”の適用拡大)】

 

アメリカにおいて、皮膚の創傷治癒材である PuraDerm の適応拡大を進めている。」

「美容整形領域に拡大を行い、顔の手技において PuraDerm を塗布できるようにする。」

「コスメティックスの市場は比較的販売しやすい。また美容整形においても鼻の手術を行うので PuraSinus を鼻の手術のために売り込む際に、PuraDerm を皮膚用に売り込むことでクロスセルが可能になる可能性が高い。」

「2020年の初頭には承認が下りると見込んでいる。来年度は美容整形領域においては PuraSinus と PuraDerm のクロスセルを行っていきたい。」

 

この資料と動画における社長の発言から、美容整形のどの手技において PuraDerm を利用するのかが明らかとなりました。

"abrasions and burns associated with dermabrasion and laser resurfacing" 「皮膚剥離術、及びレーザー・リサーフェシングに伴う表皮剥離と熱傷」への適応

 

レーザー・リサーフェシングとは「表皮、及び真皮上層をレーザー光で蒸散し、皮膚浅層を除去、新しい皮膚を形成する」というものです。老化した皮膚やニキビ跡など、皮膚における瘢痕に対する治療として、かなり以前から行われてきた術式です。

最近ではレーザーの性能が高まったとはいえ、とどのつまり皮膚組織を破壊するわけですから、組織欠損部分において微小出血や浸出液の漏出が発生し、それに伴う様々な症状が完全に収まるまでのダウンタイムは、長ければ数か月に及ぶこともあります。

 

もともと、PuraDerm の特徴としては、『主な使用効果として、1)局所止血(皮膚(表皮、真皮)からの出血に対する迅速な止血効果)、2)創傷治癒(皮膚の 創傷部の再生機能を整え創傷治癒を促す)の二つがあげられる。ただし、それ以外にも例えば、皮膚に腫瘍がある際など、 そこを切除した上で再生する目的などにも使用できる模様。動物実験結果によれば、創傷治癒を促すのみならず、非常に きれいな修復効果が得られている点も特徴といえ、医療領域に加え、美容外科領域も睨んだ開発が行われている。 』とされていたのですから、考えてみれば、PuraDerm はこのような症状に対する措置としてはまさにうってつけだと言えるのではないでしょうか。

 

美容外科領域の市場規模の大きさは言うまでもありませんし、美容外科に用いられるレーザー装置の市場が、2019 ~ 2026年までに、グローバルで3倍以上に拡大することが予想されていることからも、リサーフェシングだけでに絞ったとしても市場規模はかなりのサイズになることが期待できます。

 

 

さて、気が付けば No. 2 の倍以上の長さになっていますね。我ながら、この動画には少々浮かれているようです。(笑)

 

何しろ、ブログを始めてまもない初心者も初心者ですので、どれくらいの長さを書いてよいものやら、さっぱりわかりません。ありがたいことに、この拙い文章に目を通してくださる方もいらっしゃるようですので、またこの辺でいったん終えたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Beyond the Horizon 3-D Matrix 中間決算説明会動画を見て No. 2

3-D Matrix 2020年4月期中間決算説明会動画を見て No. 2 

 

1.2020年4月期第2四半期の業績 

 

【欧州フジフイルム「様」との協業事例】

私はホルダーとして 3-D Matrix と 富士フイルムとの関係は、少なくとも PuraStat の販売に関しては対等であって欲しいと願う立場なのですが、ここまでの FujiFilm Europe の PuraStat 販売に対する積極的な姿勢を見ていますと「様」づけもやむなしと思うようになりました。(笑)

 

自社製品でもない PuraStat の販売のためのトレーニングを、プロの営業マンに対してしっかりと行う機会を設けてくれるというのは、当たり前のように見えてそうではないはずです。実際に販売に携わるのは FujiFilm の契約する営業マンであり、当然ながら報酬などは FujiFilm から支払われるものとなります。この貴重な人的リソースを本気で PuraStat にあてるつもりがなければ、このような Kickoff Meeting など開催するわけがありません。おそらくは、これも 3-D Matrix と FujiFilm Europe の契約の中に含まれてはいたのでしょうが、それでも非常に頼もしい事実であるのは間違いありません。

 

さて、ではまた岡田社長の言葉に注目してみたいと思います。

 

富士フイルムさんは契約上販売できるのは10月からだったが、『ちょうど』10月から販売を開始している」

 

『ちょうど』という言葉は、本格販売の開始を、後へ後へとずらされてしまった某企業に対する思いがつい漏れてしまったのかもしれません。(笑)とはいえ、FuiFilm Europe も製品に対する手ごたえがなければ、契約通りの販売開始とはならなかったはずです。最初の計画通りの販売開始という情報も頼もしいものです。

 

「世界2大消化器学会の一つである UEGW で、FujiFIlm の『巨大なブース』で共同プロモーションを実施し、『200件の新規リード』を獲得できた」

 

「リード」とは「見込み顧客」の事です。実際に注文を行ってくれた顧客というわけではありませんが、単なる冷やかしというわけではなく、取引を開始する見込みのある顧客に対して使う言葉です。特に今回は学会でブースを訪れてくれたリードですから、顧客の側から PuraStat に対して興味を抱いてくれている「インバウンド型」のリードということになり、取引に至る可能性はかなり高いと言えます。

 

また、200件という数字の大きさのインパクトはかなりのものです。

 

「今我々が持っている顧客の6割に相当。全てを顧客化できれば、売上が1.5倍になる。この1.5倍の売り上げを、FujiFilm とタッグを組んで、下期に目指す」

 

ヨーロッパにおける PuraStat の売上は、販売開始以来、常に上半期の売り上げを下半期の売上が大きく上回ってきました。前期のヨーロッパ売上は「上期 74百万円、下期 118百万円」で、1.6倍の増加となっています。今期もこの割合で増加すると皮算用すれば、今期のヨーロッパの売上予想は 約4億2千万円ということになります。

 

これに加えて、今回の新規リードの顧客化が順調に進めば、さらには FujiFilm Europe の持つ内視鏡販売網への売り込みが順調に進めば、5億円強という今期のヨーロッパの売り上げ目標は十分に達成できると思われます。個人的には数字の上振れすら期待しています。

 

【UEGW(欧州消化器病週間)におけるPuraStat セッション】

 

「3-D Matrix 独自のシンポジウムで、参加ドクターの人数は昨年の 3~40人から 130人へと大きく上昇した。自社の体制強化と FujiFilm の企業力によるものである」

「130人の内80%は PuraStat 未使用者であり、ここから顧客の純増が見込める。またフォローアップの結果、そのほぼ全員が PuraStat の使用を希望している。高い成功率が見込める」

「成功の見込みが出ているイギリス、ドイツ以外のヨーロッパ諸国から多数のドクターが参加した。3-D Matrix としては、英独の成功事例を他国に横展開するための最初の足掛かりとなる」

 

あの広い会場が一杯になるほどのドクターが詰めかけていた写真を見て、かなりの人数だとは思っていましたが、130人というのは嬉しい数字です。社長は「富士フイルムのコーポレートパワーのおかげだ」と謙遜していましたが、それだけでは決してないと思います。

大きな学会では、毎日のようにあちこちで大手企業によるブレックファスト、またはランチシンポジウムが開催されます。その中で、まだまだ無名のバイオベンチャーである3-D Matrix のシンポジウムに足を運ばせるには、スピーカーの知名度だけでは困難です。そこで紹介される製品そのものにアピールするものがなければ、こうはならないと思います。

 

それに、ヨーロッパ最大の学会であり、ヨーロッパ全域からドクターが参加するという機会を十分に利用できたのは、本当に幸いな事でした。おそらくは先ほどの FujiFilm でのブースで獲得したリードと、この100名(130×0.8)前後のドクターの多くは重複しているのでしょうが、それでもこれは間違いなくフランスを始めとする、まだまだ手つかずの大きな市場を開拓するきっかけとなるはずです。それを FujiFilm とタッグを組んで販売活動をかけることができれば。売上の加速は間違いのないものとなるでしょう。

 

「当然ですが、FujiFilm に全てを任せるのではなく、3-D Matrix の人員が直接フォローアップし、最短での顧客化を図るべく、鋭意活動を進めている」

 

いいですね。やる気を感じます。(笑)

 

 いや書きたいことが多すぎます。開発パイプラインについてはページを改めたいと思います。

 

 

 

Beyond the Horizon 3-D Matrix 中間決算説明会動画を見て No. 1

しばらく時間が経ってしまいましたが、2020年4月期第2四半期 決算説明会資料、及び社長の動画が公開されました。

 

もはや代名詞ともなっている寝癖がついた髪のままで社長が説明を始めましたが、その様子に少し違和感を覚えました。

 

岡田社長は説明をする際に、無意識にだとは思いますが、声に力をこめようとするタイプだと思います。「相手に理解して欲しい」という気持ちが声にこもり、悪いことでは全くないのですが、少しだけ気負いを感じるプレゼンテーションを行う方だというのが、私の個人的なイメージでした。

 

ところが今回の動画は、最初から社長の声には気負いはなく、逆に落ち着きを感じるものでした。同様に表情からも落ち着きと自信を感じ取れました。

 

1.2020年4月期第2四半期の業績

 

「大きく変わったのが売上である」というのは中間決算の数字からわかっていましたが、やはりここからアピールの開始となりました。つぎに、「販管費が事業の伸びに伴い『若干』増えている」との言葉がありましたが、この「若干」という言葉に「今後期待される飛躍的な売上の増加からすると、この程度の販管費の増加は許容範囲内だ」社長の思いが読み取れる気がしました。(あくまでも、私の個人的な想像です)

 

「ヨーロッパとオーストラリアの体制の強化は一通り目途がたった」

「来期はコスト増はできるだけ抑えたい」

「現在の体制で売上の増加をマキシマイズ(最大化)する」

「営業利益も来期は大きく改善する」

 

この言葉は、今期の販管費の増加の予告と同時に、来期の黒字化の追求の宣言だと取りました。

 

バランスシートの解説で、少し昨年までの負けず嫌いの岡田節が復活しました。(笑)

 

「去年と比べて「若干」現金が減少した。事業進捗にともなって10億ほど。」

 

いやいや、さすがに10億の減少は「若干」ではないでしょうと、思わず心の中でつっこんでしましましたが、社長の表情とその言葉からは、これぐらい大きな問題ではないとの思いが伝わってきました。詳しい状況を聞かせてくれるかと期待していたので、少し肩透かしを食ったのですが、増資も決まっていますし、これ以上大きなリスク要因とはならないと期待します。

 

 売上のブレークダウン(分析)に関しては、まずは「ヨーロッパの売上が『ぐんと』伸びた。これを拡大、または維持し、高い成長を達成したい」との宣言がでました。そしてオーストラリアについては、次のような社長の発言がありました。

 

「オーストラリアでは人員の増加がそのまま売上の伸びにつながっている」

「1人だった営業を4人に1増やしたところ、売上が3倍以上になった」

「現状で月次でほぼほぼ黒字を達成している」

「コスト増を売り上げ増がすぐにカバーする。このまま順調に伸ばしていきたい」

 

オーストラリアは代理店を通さない直販のため、利益率は2倍になります。また、オーストラリア支社に研究開発費は存在しないはずですから、純粋に製品原価と販管費ということになります。とはいえ、子会社単位で月次でとは言え、製品売上による黒字化の達成の事実は、ホルダーにとっても大きな希望となります。

 

2. 本年度これまでのハイライト

 

まずは「国内での止血材開発の進捗状況」についてですが、「再試験を実施、長らく開発に時間を使っていた」という言葉に、おもわずうなづいてしまいました。(笑)

 

次にアメリカの癒着防止材 PuraSinus に関する話の中にいくつか興味深い情報がありました。

 

「PuraSinus も扶桑薬品工業が製造している」(まあ、そりゃ事実上PuraStat と同じ製品ですから。ラベルと先端部に違いがあるぐらい?)

「製品の製造が無事完了。今、アメリカ向け製品はアメリカの倉庫に入っている」(ということは、日本からの輸出や保管倉庫の確保といった段階のロジスティクスは構築済みということですね。)

「学会プロモーション後、10月からアメリカの著名な病院にアクセスをとり、コンタクトを開始済み(つまり、売り込み開始)」

「現時点で PuraSinus を試してみたいという病院は『数十』に及ぶ」(数十?本当に?オーストラリアでは耳鼻科領域は現時点でも 2~30件のはず。最初からそれほど注目を浴びているということ?

「現在興味を持ってくれている病院としては、クリーブランドクリニック、セントエリザベスメディカルセンター、メイヨークリニック」

 

ここで、社長が挙げた3つの病院を簡単に紹介しますと、

クリーブランド・クリニック: 

オハイオ州クリーブランドにある、研究を主眼とする医療機関です。ただ、研究主眼とはいえ、11の関連病院を運営し、病床数は 1500という大規模な病院施設でもあります。様々な全米の病院ランキングで、常に上位に入る有名病院であり、昨年は US News and World Report 誌のランキングで全米2位に入っています。

 

セントエリザベス・メディカルセンター:

マサチューセッツ州のボストン近郊のブライトンにある、ニューイングランドでは2番目に大きな医療機関です。また、医学で有名なタフツ大学の関連病院であることでも知られています。ここは高度先進医療で知られており、研究機関としても有名です。

 

メイヨー・クリニック:

ミネソタ州ロチェスターにある、言わずと知れた全米最大の医療機関です。この病院に所属する医師の数は 4500人以上、スタッフの数は 58000人を超えるという、日本では想像ができないような規模の医療機関です。また、単に規模が大きいだけではなく、全米の研究機関と提携し、様々な先進医療の開発においても全米屈指ですし、研究費が年間で700億円を超えると聞けば、その研究の規模と水準が想像できると思います。

 

「そういう著名なクリニックさんからも手を挙げてもらっている」わけなら、上記の3つの医療機関の一つでも、正式に PuraSinus の使用を開始してもらえれば、その事実がプロモーションにおいて、何よりも強力な武器になるのは間違いありません。3つとも採用ということにでもなれば...... 。

 

「現在の状況は、全米に流通させるためのコールドチェーン(低温で製品を運送するための流通システム)を作っているところ。それが完成し次第、商品を病院に出荷する」

「年明けの早い段階で、製品を病院に届けることができるという予定」

 

おそらくは、その製品の大半はトライアル用に、無料で配布することになるのでしょうが、それは構いません。けちけちせずにどんと渡した方が、医療機関側も積極的に臨床使用してくれるでしょうし。それが正式購入につながれば良いのですから。

 

「まずは、著名病院で使用してもらい、良い評価をもらう。それを踏み台に来期以降販売額を大きく伸ばしていきたい」

 

製品のポテンシャルに疑いがあれば、まずはオーストラリアで売れていませんし、さらに、これほど有名な全米を代表するような医療機関がトライアルを希望することもあり得ません。この進捗は極めて順調なもので、今後に大いに期待が持てそうです。

 

さてあまりに長くなりそうなので、一度この辺で終了し、残りは後日ということにいたします。