Beyond the Horizon 3-D Matrix 中間決算説明会動画を見て No. 3

3-D Matrix 2020年4月期中間決算説明会動画を見て No. 3

 

3.開発パイプラインと進捗

 

【吸収性局所止血材の開発(心臓血管外科領域)】

 

「国内での止血材の内視鏡に続く次の領域をどうするかということに関して、心臓血管外科を第一候補として考えたい。」

「理由としては同領域が止血剤市場では3割以上を占める最大セグメントであること、グローバルのトップブランド(Johnson & Johnson や Baxter) の製品が撤退していることで新しい製品が受け入れやすいこと、 そして日本特有の状況として過去の出来事から生体由来の製品による感染リスクに敏感であるため、当局も感染リスクを重視しており、感染リスクを否定できる製品が歓迎されやすく、薬事戦略上優位に働く。」

「ヨーロッパでは苦戦しているが、日本は環境が違うため勝ち目がある」

「今期中に PMDA との対面助言を求める。」

 

ここで注目すべきは、残念ながらヨーロッパの心臓血管外科領域では苦戦中ということを社長が認めたという点ですね。

 

イギリスの同領域の KOL であるサザンプトン大学病院の S. Ohri先生の論文 (Feasibility of a novel, synthetic, self-assembling peptide for suture-line haemostasis in cardiac surgery.) を読む限り、同領域における PuraStat の効能には疑問はありません。

 

ただ、ヨーロッパの心臓血管外科領域では、内視鏡領域とは異なり、老舗の止血剤が今でも大きなシェアを保っています。ただでさえ少ない独立系の医療機器販売代理店が、同領域ではなおさら少ないという状況ですから、どうしても大手の代理店と販売契約を結ぶ必要がありますが、それにはある程度の売上をみせる必要があるという矛盾を解決しなくてはならず、「苦戦」という社長の言葉はある程度致し方のないことではあります。

 

とはいえ、ヨーロッパでは売上の一部は心臓血管外科領域におけるものであり、まったく売れていないというわけではありません。また、イギリスで行われている同領域の市販後治験も終了し、そろそろデータがまとまり結果がでるころです。内視鏡領域における PuraStat の優位性の多くは心臓血管外科領域でも通用するものでもあり、時間はややかかるとしても、最終的には同領域でのシェアも増加していくものと期待しています。

 

日本はヨーロッパとは状況が異なるとはいえ、内視鏡領域と比べれば手ごわい市場となることは否めません。まずは内視鏡領域でしっかりとした知名度と評価を確立し、その後、心臓血管外科領域でも市場を獲得するという、ヨーロッパと同じ戦略を取ることになると思われます。

 

内視鏡用粘膜下注入材の開発】

 

「日本二つ目のパイプライン(内視鏡用粘膜下注入材)も承認申請が見えるところまで来ている」

ヒアルロン酸を先行品とする改良医療機器として臨床試験なしで開発を進めているが、非臨床試験は全て終了した。安全性の問題で本製品がドロップすることはもうない。」

「現在、コマーシャル用の製品の大規模な製造を、パートナー企業である扶桑薬品工業と行っており、今期期末前後に申請を行える予定。」

 

これに関しての感想は「順調」という一言に尽きます。これまでの各製品の原材料である RADA16 とは異なり、本製品は新規配列の自己組織化ペプチドを使用していることから、細胞毒性の有無や接触アレルギーの危険性など、様々な生物学的安全性は、これまでは正式には確かめられていなかったのですが、今回の結果により、この自己組織化ペプチド配列においても生物学的安全性が証明されたことになり、まずは一安心と言えるでしょう。

 

それにしても、この製品や次世代止血材に用いる自己組織化ペプチドの配列については、ずいぶんと秘密主義を貫いていますね。知財戦略ともからんで致し方ないことではありますが、早く知りたいと思います。

 

【止血材の開発(消化器内視鏡領域)】

 

アメリカにおいて止血材の開発戦略が決定せず困っていたが、内視鏡領域での開発を進めることにほぼ確定した。」

「理由の一つ目として、ヨーロッパで内視鏡領域では PuraStat が強いポジションを占め得ることが分かってきたという成功事例がある。」

「先行品が治験無しの 510(k)で承認が取れた。3-D Matrix も後発医療品として臨床試験なしで申請し承認が取れることがほぼ確実にわかった。」

アメリカの内視鏡市場が大きく拡大しており、日本の80万例、ヨーロッパの200万例に対して 120万例ある。オリンパス富士フイルム内視鏡の販売においても、最大の利益は北米市場で得ている。」

「510(k)申請であれば、来年度中には申請が可能。来期末か再来期の頭には承認を獲得し、再来期には製品を市場に投入したい。2年後には本製品がアメリカで売上に貢献する。」

「今年 PuraSinus を市場に投入し、来年は売上に貢献する。再来年は止血材が売上に貢献することになる。つまり、来年、再来年と立て続けに新製品が売上に貢献するという中期経営計画を立てる」

 

今回の最大のサプライズは、この「アメリカで止血材を内視鏡領域で販売する。そのための申請を来年度中には 510(k)で行い、遅くとも再来年には承認を獲得、販売を開始する」という内容でしょう。

北米における止血材の開発戦略は遅々として進まず、多くのホルダーがやきもきしていたことと思います。私もその一人でしたが、アメリカは治験など開発に大きな資金が必要となることもあり、まずは日本市場での成功を見てから、つまり来期から再来期にかけて開発戦略を決定するのだろうと思っていましたので、今回の決定は驚きました。

 

おそらく今回の決定の背後にあるのは、先行品が 510(k)で承認を獲得したことでしょう。先行品が何かは不明ですが、これにより最小限の資金でアメリカ上市を果たせるとなった以上、少しでも早くと経営陣が考えているのは理解できます。

 

アメリカは内視鏡検査はともかくも、手術の方はまだまだ発展途上であり、当然ながら、それに対する局所止血材も独占的なものは存在していません。これは日欧と同じ条件です。もちろん、Hemospray を製造販売している Cook社や EndoClot 社はアメリカの企業であり、ライバルは存在しないわけではありませんが、ヨーロッパでは互角以上の戦いを行えていることからも、アメリカ市場での成功確率は十分にあります。そのためにも、少しでも早く上市を果たし、販売を開始したいということなのではないでしょうか。

 

アメリカには Ethicon( Johnson & Johnson の子会社)という止血剤最大の企業が存在しますが、この企業の止血剤はフィブリン製剤であり、止血効能は互角でも、PuraStat のように後出血予防や創傷治癒が期待できるわけではありません。市場が固まる前であれば、この巨人に対しても互角以上の戦いは可能だと思われます。

 

【創傷治癒材の開発(”PuraDerm”の適用拡大)】

 

アメリカにおいて、皮膚の創傷治癒材である PuraDerm の適応拡大を進めている。」

「美容整形領域に拡大を行い、顔の手技において PuraDerm を塗布できるようにする。」

「コスメティックスの市場は比較的販売しやすい。また美容整形においても鼻の手術を行うので PuraSinus を鼻の手術のために売り込む際に、PuraDerm を皮膚用に売り込むことでクロスセルが可能になる可能性が高い。」

「2020年の初頭には承認が下りると見込んでいる。来年度は美容整形領域においては PuraSinus と PuraDerm のクロスセルを行っていきたい。」

 

この資料と動画における社長の発言から、美容整形のどの手技において PuraDerm を利用するのかが明らかとなりました。

"abrasions and burns associated with dermabrasion and laser resurfacing" 「皮膚剥離術、及びレーザー・リサーフェシングに伴う表皮剥離と熱傷」への適応

 

レーザー・リサーフェシングとは「表皮、及び真皮上層をレーザー光で蒸散し、皮膚浅層を除去、新しい皮膚を形成する」というものです。老化した皮膚やニキビ跡など、皮膚における瘢痕に対する治療として、かなり以前から行われてきた術式です。

最近ではレーザーの性能が高まったとはいえ、とどのつまり皮膚組織を破壊するわけですから、組織欠損部分において微小出血や浸出液の漏出が発生し、それに伴う様々な症状が完全に収まるまでのダウンタイムは、長ければ数か月に及ぶこともあります。

 

もともと、PuraDerm の特徴としては、『主な使用効果として、1)局所止血(皮膚(表皮、真皮)からの出血に対する迅速な止血効果)、2)創傷治癒(皮膚の 創傷部の再生機能を整え創傷治癒を促す)の二つがあげられる。ただし、それ以外にも例えば、皮膚に腫瘍がある際など、 そこを切除した上で再生する目的などにも使用できる模様。動物実験結果によれば、創傷治癒を促すのみならず、非常に きれいな修復効果が得られている点も特徴といえ、医療領域に加え、美容外科領域も睨んだ開発が行われている。 』とされていたのですから、考えてみれば、PuraDerm はこのような症状に対する措置としてはまさにうってつけだと言えるのではないでしょうか。

 

美容外科領域の市場規模の大きさは言うまでもありませんし、美容外科に用いられるレーザー装置の市場が、2019 ~ 2026年までに、グローバルで3倍以上に拡大することが予想されていることからも、リサーフェシングだけでに絞ったとしても市場規模はかなりのサイズになることが期待できます。

 

 

さて、気が付けば No. 2 の倍以上の長さになっていますね。我ながら、この動画には少々浮かれているようです。(笑)

 

何しろ、ブログを始めてまもない初心者も初心者ですので、どれくらいの長さを書いてよいものやら、さっぱりわかりません。ありがたいことに、この拙い文章に目を通してくださる方もいらっしゃるようですので、またこの辺でいったん終えたいと思います。