In Order To Stay Independent 「第2回及び第3回新株予約権付社債並びに第24回及び第25回新株予約権の発行についての感想 No. 3」

調達資金の使用目的について 

 

 今回の増資の使用目的について考える前にまず、今回の IR で明らかになった「前々回増資」と「前回増資」で調達された資金の使用状況について確認したいと思います。

 

第1回転換社債型新株予約権付社債並びに第20回新株予約権、及び第21回新株予約権

 

➀「PuraSINUS Gel(癒着防止材)の製造及びプロモーション/販売体制構築に関する費用5億円」

 

 これは前々回の増資において最も優先された使用目的でしたが、無事満額が調達され、その全額が現時点で既に充当されています。米国鼻科学学会でのブース出展や、全米の有力病院の KOL への製品の紹介や試用のための提供費用等に使われ、3-D Matrixの発表(決算説明会資料)によれば、極めて良い反応を受けたとのことですので、この資金は効果的に使われたと評価できるでしょう。

  また既にアメリカの販売網の構築がかなりの所まで行われていることも推測できますが、残念なことに、今回の COVID-19感染症拡大によって販売網の完成、そして本格販売の開始までは至っていないと予想されますが、この混乱がある程度鎮静化すれば、また販売に向けた動きが再開されることが期待できます。

 

➁ 「PuraDerm(創傷治癒材)の製造及びプロモーション/販売体制構築に関する費用3億円」

 

 こちらも満額の調達に成功、その全額が充当済みです。

 製造と販売体制の構築は、➀の PuraSinus と重複すると思われますので、この金額の多くは KOL による臨床研究とプロモーションに使用されたと思われます。

 

➂ 「本止血材及び研究開発中パイプライン用の原材料調達費用5億円」 
 満額の調達に成功、全額が充当済み。(これに関しては後で詳しく述べたいと思います)

 

➃ 「日本におけるその他の外科領域での本止血材の製品化に向けた開発費用(治験費用及び申請関連費用)5億円」

 

 満額の調達に成功、現時点で3億円(60%)の充当。

 「その他の外科領域」はおそらくは「心臓血管外科領域」が中心となっていると思われます。(腹腔鏡治療をターゲットとする「消化器外科領域」はその後に来るはずです。) 具体的には「前臨床試験(動物試験)の実施」、「CROへの委託費用」、「実施医療機関への委託費用」となっており、60%の充当率から考えて、現時点で PMDA との間で治験プロトコルに関するすり合わせが終了し次第、治験開始が可能となるという段階まで来ているのではないでしょうか。

 

➄ 「ドラッグ・デリバリー・システムの研究開発費用(核酸医薬、BNCTの製造及び研究開発費用)7億円」

 

 調達額は1億4500万円(20%)にとどまり、その金額は現時点で充当済み。

 トリプルネガティブ乳がんに対するがん治療薬であり、siRNA核酸医薬品でもある TDM-812 の治験の再開に、想像より時間がかかっていた理由の一つはこの資金調達が未達に終わったことでしょう。広島大学の miRNA核酸医薬品の治験は今年度(2020年)に開始予定であり、まだ時間的な余裕はありますが、TDM-812 の治験は一刻も早く再開することを 3-D Matrix 側も切望していたはずであり、この増資で必要額の調達に失敗したことは残念だったはずです。

 

➅ 「欧州における粘膜隆起材の研究開発費用 1億3900万円」

 

前々々回の増資で3億円調達予定だったが、5800万円の調達に終わっていたもの。今回は満額を調達、全額を充当済み。

 

前々々回増資と合計で 1億9700万円の調達額で終了していますが、日本での粘膜隆起材(粘膜下注入材)の開発方針の変更(後発医療機器としての開発が認められたため、治験の実施が不要になったこと)に伴って、欧州での開発にも変更があったと思われます。欧州での治験そのものは必要であることに変わりはないはずです。


 

第23回新株予約権

 

➀ 「オーストラリアにおける販売及びマーケティング体制の強化に関する費用2億円」

 

 満額調達に成功、現時点で5千万円(25%)を充当済み。

 おそらくですが、この2億円の多くは「消化器内視鏡領域」の治験や販売プロモーションに使用される予定だったものが、今回の COVID-19 による混乱によって予定が進んでいないために、充当率が低いのだと思われます。オーストラリアの状況はかなり鎮静化しており、今後早い時期にストップしている治験などが行われれば、残りの資金も充当されていくはずです。

 

➁ 「米国における本止血材とその他のパイプラインの研究開発及び承認申請に関する費用3億円」

 

 満額を調達、現時点で5千万円(16.6%)を充当済み。

 この回の増資で最も注目されたのはこの使用目的でした。これはアメリカで止血材(TDM-621)の 510(k)申請に使われる予定の資金となります。調達額は目標に届いていますが、16%という低い充当率からすると、残念ながらまだ進捗状況は初期段階にとどまっている可能性が高いです。今現在 FDA は COVID-19 対策に忙殺されているはずであり、事前の相談なども十分に行われていないでしょうし、前臨床試験すら中断しているという可能性もあります。これは COVID-19 の混乱が一段落してからとなるでしょう。

 

➂ 「本止血材とその他パイプラインの原材料調達及び製造原価改善とその開発に関する費用4億円」

 

現時点での調達額 1億7300万円(43.5%)、充当額 1億円(予定額の 25%)。 (詳細は後で)


➃ 「ドラッグ・デリバリー・システムの研究開発費用(核酸医薬、BNCT の製造及び研究開発費用)5億5600万」

➄ 「日本における本止血材の上市に向けたプロモーション/製造販売体 制構築及び市販後調査に関する費用2億円」

➅ 「運転資金1億9400万円」

 ➃、➄、➅の3つに関する調達額は、いずれも0円。


 それでは今回の増資の使用目的について述べてみたいと思います。

 

第2回及び第3回新株予約権社債並びに第24回及び第25回新株予約権

 

➀ 「本既存証券の買入資金10億9500万円」

 

 これは前回の転換社債ロールオーバーと、21回、23回新株予約権の残りの消却に使用されるもので、何かを生み出すものとは言えません。とはいえ、これによって転換社債の現金償還を行わずに済むことで資金ショートを避けられるわけですから、極めて重要な使用目的と言えるのではないでしょうか。

 

➁ 「本止血材とその他パイプラインの原材料調達及び製造原価改善とその開発に関する費用12億7700万円」

 

 前回と前々回の増資でもかなりの額が原材料の調達に充てられていました。 PuraStat は医療機器です。医療機器の販売において絶対に許されないのは、医療機関が必要とする時に製品を届けられないことです。単に信頼が失われるというだけではなく、場合によっては患者の生命にかかわる可能性すらあります。従って、必ず余裕を持った生産計画を立てる必要があり、そのためには十分な量の原材料を常に用意しておく必要があります。

 とはいえ、予定販売額を何倍も上回る製品を製造することは、いたずらに原材料費を膨らませることになります。原材料である RADA16の使用期限は3年ではないかと推測されていますが、だとすると少なくとも、原材料の調達から3年以内に製造し、販売することを前提として計画が立てられているはずです。
 現時点で、原価率は 80%程度。その内原材料費が占める割合は、前期の有価証券報告書によれば、原価の 57.1% であり、現時点において売上の約45% が原材料費ということになります。

 あくまでも前期末の棚卸資産の額などから推測した値に過ぎませんが、今期末において前期の原材料の残りが8億円分程度と試算、それに加えて前々回の増資で5億円分が追加。さらに今回の増資による原材料の購入のための資金調達額が13億円弱だとすれば、今回の増資終了時点でざっと25億円分程度の原材料が準備されることになるのではと考えています。従って、仮に現在の原価率で計算すれば、その倍の50億円分を上回る量の製品製造が可能となると思われます。(ただし、製造ラインの改良に必要な額がここから差し引かれます。さらに、今期末の時点で使用期限となり、廃棄を余儀なくされる分も差し引く必要がありますが、原価率の改善を考慮すれば、それ以上の製品製造も可能かもしれません)

 50億円分の製品と聞けば、過大な量の原材料の調達に見えてしまうかもしれませんが、今期に発表された中期経営計画によれば、来期の製品販売の目標額は 17億7400万円、再来期の目標額は 53億5000万円となっています。ならば、50億程度の製品は、再来期の途中で全て販売されることになります。これなら、決して過大な調達額とは言えません。

 私は、今回の増資で13億円弱(マイナス製造ラインの改良に必要な額)分の原材料を調達すること自体、来期と再来期の売上に対する経営陣の自信を示すものだと考えています。

 

➂ 「日本における本止血材の上市に向けたプロモーション/製造販売体 制構築及び市販後調査に関する費用2億円」

 

 これは前回の増資で調達できなかった分です。今期中には止血材の製造販売承認が予定されています。原材料の調達の次に優先される、つまりパイプラインの進捗に関して最優先の使用目的がこれであるというのもまた、今期中の承認に対する自信の表れだと思われます。


➃ 「カナダにおける販売体制構及びマーケティング関連費用1億7000万円」

 

これはオーストラリアにおける経験を活かすものです。

 オーストラリアでは大手代理店による販売が行われたものの、なかなか予定通りに販売が進まず、自前の営業マンを雇用して直接販売活動を行うようになって初めて販売が軌道に乗りました。カナダにおいても、地元代理店に任せきりにするのではなく、それをサポートする営業人員を最初から用意することで売上の伸びを短期で達成しようとするものでしょう。


➄ 「米国における販売体制強化に関する費用1億6700万円」

 

これは前々回の増資による資金調達で販売網の構築に加えて、営業人員の増員を図るためのものとされています。ポイントは「増員」という点。販売の当てがないのに販管費を増加させる増員を行うわけがありません。これは PuraSinus の販売に予想以上の手ごたえを感じたからこその資金調達のはずです。

 

➅ 「事業運営費用7億5300万円」

 

➆ 「ドラッグ・デリバリー・システムの研究開発費用(核酸医薬、BNCT の製造及び研究開発費用)5億5600万円」

 

 これは前回、前々回の増資において調達できなかった分を補うものですが、今回の IR において、より具体的な使用目的が説明されています。
 「2020 年5月から 2023 年7月までの期間において、核酸及びペプチドの購入、非臨床での有効性の検証試験実施、安全性試験の実施、治験薬の製造、治験の実施等のために充当」
 つまり、聖路加国際病院で開始予定の TDM-812 の治験費用(治験薬の製造)、今年度に予定される広島大学との共同研究である悪性胸膜中皮腫を対象とする miRNA 核酸医薬の治験費用です。来期中に DDS 分野における大きな進展がみられることは、もはや確実だと言えます。

 財務的に厳しい中で、DDSの開発に十分な資金を充てる意味は何でしょうか。それに対する答えは IR のこの一文だと思います。
 「なお、核酸医薬及びドラッ グ・デリバリー・システムに関しては、早期の治験終了後に製薬会社等へのライセンシングを視野に入れ開発を進めております。」

 

 

 以上、今回の増資によって調達される資金の使用目的について考えてきました。事業運営費用はともかくとして、それ以外の使用目的は、どれもこれも全て、3-D Matrix という企業の成長にとって不可欠なものだと断言できます。無駄な資金など一つたりともありません。

 

 COVID-19 が発生していなければと悔しく思う気持ちがないとは言いません。しかし、それを理由にして開発パイプラインや販売計画をストップさせるのではなく、必要額を転換社債と MSワラントによって調達し、独自性を保ったまま、それを進捗していくという今回の経営陣の選択を、私個人は評価したいと思います。