In Order To Stay Independent 「第2回及び第3回新株予約権付社債並びに第24回及び第25回新株予約権の発行についての感想 No. 2」

今回の増資の意義について

 

    今回の増資を不要だと考えるホルダーはおそらく一人もいないでしょう。

 

 COVID-19の感染拡大により、3月から4月にかけてPuraStat の主要市場であるヨーロッパの大半の国では国境封鎖や外出制限などを強制するロックダウンが行われています。また、医療機関のほとんどが COVID-19 対策で手一杯となり、医療崩壊の一歩手前という状況下で、PuraStatを使用する消化器内視鏡を使った治療はほどんど行われていないのが現状です。
 ヨーロッパの大半の国はピークアウトを迎えており、4月中には感染拡大は一段落し、ロックダウンの本格的な解除も5月の中旬あたりから開始する旨各国が発表していますが、経済活動を含む社会状況が混乱前の状況に戻るのには数か月から、場合によっては数年かかると予想する専門家が多数派です。

 医療活動は、それと比べれば短期間で正常な状態に戻るはずですが、それでも数か月から半年程度は必要でしょう。となれば PuraStat の本格的な販売活動が再開されるのも、同様に数か月から半年後となる可能性が高く、残念ながら、来期のヨーロッパにおける売り上げは目標を大きく下回るのは確実と言えます。

 

 もう一つの PuraStat の主要市場であるオーストラリアも、ヨーロッパと比べれば感染者数ははるかに少ないものの、感染を防ぐための外出自粛や集会の禁止、レストランなどの営業規制などが行われており、医療においても、医療従事者への感染をさけるため、不要不急と判断される手術などはできるだけ延期するよう各種学会が推奨しています。
 となれば、オーストラリアにおける主要適応領域である耳鼻科領域の手術の件数も減少しているでしょうし、肥満手術も同様と想像されます。従って、オーストラリアにおいても来期の売上は予定より減少するでしょう。

 さらに PuraSinus の本格販売開始が期待されたアメリカは、ピークアウトは迎えようとしているものの、状況の安定までは今しばらくの時間が必要であり、販売網を整備するのもままならないという状況が続くことが予想されます。売上の開始そのものが来期の下期にずれ込む可能性も高いでしょうし、販売プロモーションの前提となる市販後治験の開始もかなり遅れそうです。

 

 以上のことから、来期の PuraStat の売上は目標を大きく下回ると予想されます。

 

 今期末時点でどれくらいの現金が残っているのかは、様々な憶測が飛び交っていますが、6億から7億程度という数字が最も可能性の高いものだと思われます。仮に来期上期の売上が全くなく、同時に製品製造は予定通りに行う、さらに販管費の減少もなく、研究活動もこれまで通り続けるとすると、この現金は3ヵ月弱で尽きてしまうことになります。

 仮に、ヨーロッパでは販売活動を一切 FujiFilm Europe に任せ、3-D Matrix は製品供給だけに特化し、オーストラリアでは営業人員を全員解雇し販売活動を一切ストップさせる。同時に治験を含む研究活動を一切中止するなら、上期の半年ぐらいは乗り切れるかもしれません。その間に止血材の国内承認など各種材料によって株価が戻るのを待ち、既存の増資の再開によって財務状況が改善するのを期待するというのも一つの手段です。

 

 しかし、それは正しい選択なのでしょうか? 

 

 例えば、オーストラリアでは直販が行われていますが、自力販売の経験が短く、販売ノウハウの乏しい 3-D Matrix にとってベテラン営業マンこそが販売網拡大にとって最も大切な資源となります。その営業マンを、増資を避けるために切り捨てるという選択に理はあるでしょうか。営業マンを失うというだけでなく、その営業マンの開拓した販売先医療機関の信用も大きく毀損するでしょう。失った信用を再び取り戻すにはどれくらいの時間がかかるでしょうか。

 また資金ショートを理由に治験をストップするなどということがあれば、それを再開するのはそれほど簡単な事ではありません。単に治験計画変更届を提出すればよいなどという問題ではありません。聖路加国際病院で始まった TDM-812 核酸医薬の治験だけではありません。ヨーロッパの次世代止血材の治験は前臨床試験を終了し、人臨床に移る直前段階のはずです。当然ながら、実施医療機関との話合いはかなり進んでいるはずですが、それを資金難を理由に撤回することがどのような影響を与えることか。その他にもアメリカやオーストラリアにおいて、各種市販後治験が予定されていますが、それもすべてあきらめ、一からやり直すという選択がどれほどのダメージを今後の展開に与えることか。

 

 それなら、大手企業に資本の一部を引き受けてもらえばいいのではないか。完全子会社ではなく、持分法適用会社になるぐらいなら問題はない。 25% 程度の新株を発行し、取締役の一人でも受け入れて、資金を援助してもらえれば今後も安心だ。そのように考える株主が実は多数派なのではないかと考えることもあります。自己組織化ペプチドのポテンシャルから考えて、手を挙げる企業が1つもないとは考えにくく、可能性は十分にある話です。

 

 しかし、これまでも主張してきましたが、大手企業の傘下に入るということは、この会社の持つ独自性を売り渡すことです。親会社(または投資会社)のパイプラインと重なる可能性のある開発は極めて難しくなるでしょうし、親会社が 3-D Matrix のポテンシャルを自らの開発計画よりも優先するなどということはまずありえません。

 自社の基盤技術のポテンシャルと自社製品の可能性を信じている経営陣が、万策尽き果てて他に手段がないという状況に追い込まれていない限り、相手がどれほど大企業であれ、その傘下に入るという選択を成すとは思えません。仮にその選択をするとすれば、まさに企業存亡の危機にあるということであり、今回その選択を取らずに済んだということは、まだこの企業には余裕が残っている証拠だとは言えないでしょうか。

 

株価への影響について


 また今回の増資は、株価に対しても必ずしもネガティブとは言えないでしょう。

 ここ数か月の株価の下落は、直接的には COVID-19の感染拡大が原因でしたが、下落率が他のバイオ銘柄よりも大きかったのは、やはり某経済誌が指摘した通り、財務状況が欧州の状況によってさらに悪化し、近々資金ショートが現実のものとなるのではという不安が影響したのではないかと思われます。

 しかし今回の増資により、その資金ショートの可能性はほぼ消えたと言ってよいでしょう。
 
 まず来期の開始時点で CB によって約3億円が調達されますので、9億~10億のキャッシュでスタートすることになります。その後は、仮に毎月200円から300円の株価で 100万株の行使が行われたとすれば、2億~3億円の資金が10か月に渡って追加されていきます。個人的には、新株の行使と市場内売却が進んだとしても、それ以上の株価が維持されるものと期待していますので、調達額はさらに大きなものになると推測しています。
 これに加えて、今期中には止血材と局注材の製造販売承認により10億円の一時金が得られる予定であり、最終的には、来期はもちろん、再来期の必要額の多くもこの増資で調達できるものと思われます。

 

 自己組織化ペプチドという基盤技術と、その技術を製品化した PuraStat や PuraSinus のポテンシャルに期待を抱きながら、財務状況に不安を抱き、3-D Matrix への投資に二の足を踏んでいる投資家、特に財力のある欧米の個人投資家なら、今回の増資はその不安を払拭するポジティブな情報となるはずです。

 

 この推測が正しいかどうかは、5月の行使開始日以降の値動きが示してくれるでしょう。