Beyond the Horizon 3-D Matrix 中間決算説明会動画を見て No. 4

Beyond the Horizon 3-D Matrix 中間決算説明会動画を見て No. 4

 

3.開発パイプラインと進捗

 

【DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)領域の進展】

 

「DDS分野で複数の研究を行っているが、『今今の時点では』マイルストーンは発生していないが、順調に進捗している。」

「特に siRNAの核酸医薬においては、ファースト・イン・ヒューマン試験の Phrase I が終了しているが、これを継続する形で次の治験を準備したい。」

 

ここしばらく決算説明会では DDS の進捗に関しては、社長の口から詳しい説明がなされることはありませんでした。特に、トリプルネガティブ乳がんを対象とした核酸医薬である TDM-812 に関しては、第1相の終了 IR において拡大治験の実施計画を発表したものの、それ以降は詳細な情報は一切ありませんでしたが、今回久しぶりに TDM-812 の進捗に触れたことは注目に値すると思います。

 

昨年あたりから核酸医薬にまた注目が集まり始めています。siRNA に関しても 2018年に、同領域におけるリーディングカンパニーである Alnylam Pharmaceuticals が、初のRNA干渉を利用する siRNA 核酸医薬である Onpattro を上市したのを皮切りに、今年から来年にかけても複数の siRNA 核酸医薬の治験の終了や承認申請が行われることが期待されています。

 

この状況において、トリプルネガティブ乳がんに対する世界初のヒト投与となった TDM-812 の治験再開は、かなりの注目を浴びるはずです。なぜなら、なぜかホルダーからは注目されなかったのですが(笑)、国立がん研究センターから、この第1相治験においての Proof of Concept の取得が発表されているからです。

 

プルーフ・オブ・コンセプトとは「研究開発中である新薬候補物質の有用性・効果が、動物もしくはヒトに投与することによって認められること。ヒトや動物に新薬候補物質を投与し、予定していた通りの効果が出たこと」を意味します。TDM-812 における POCは「RPN2遺伝子の発現の低下確認」だったわけですが、この成功は 3-D Matrix 側からすると、そのDDSである A6K のデリバリーの成功を意味します。

 

つまり現時点では、siRNA核酸医薬における人臨床試験におけるDDS としては、A6K はリポソーム以外では唯一の成功例と言えるのです。

 

この成功のインパクトをさらに大きくするには、広島大学で行われている悪性胸膜中皮腫を対象とした miRNA核酸医薬の進捗も重要ですが、それ以上に TDM-812 の治験をさらに進めることが必要だと思います。残念ながら、国立がん研究センターでの第1相治験は症例数が5件で終了し、中程度の投与量での安全性の確認で終わっています。最終的な安全性を証明するためには高用量での投与がどうしても必要となります。これが終了して本当の意味で第1相が終了したと言えます。

 

DDS 領域においては自社での開発はあくまでも初期段階まで。その後は大手製薬企業へのライセンスアウトを目標としていますが、TDM-812 に関してもそれは同じでしょう。さらに言えば、もしライセンスアウトの可能性が低いのなら、3-D Matrix側からすれば拡大第1相の治験を行う必要性はそれほど高くはないのです。(DDSとしての効果は既に証明されており、広島大での治験も始まることから、費用的にも意味のない治験を開始する余裕はありません。)

 

今現時点において、3-D Matrix と核酸医薬を結びつけることが出来る投資家は、遺憾ながらほとんどいないでしょう。しかし、だからこそ、この領域での進捗は全てポジティブサプライズとなります。siRNAであれ、miRNAであれ、miRNA阻害薬であれ、または BNCT であれ、今期から来期にかけて期待される進捗は、ホルダーにとっても大きな意味を持つものになるでしょう。

 

【主要パイプラインの開発状況(2019年12月現在)】

 

「止血材に関しては、ヨーロッパで勝ち目が見えてきている領域(内視鏡領域)を日米に展開したという成果を得た。」

「グローバルで 2500億の市場に、日米欧で入っていくための足掛かりを築いた。」

「これまではヨーロッパやCEマーク圏だけでの販売だったが、今期の成果として、アメリカにおいて二つの製品を持つことができた。」

「最大市場であるアメリカが販売先として加わったのは大きい。」

再生医療アメリカ)や DDS(日本)における成果は将来的に別地域に横展開を行い、ここから将来の柱が出てくるものと考えている。」

 

 止血材を始めとする「複数の製品を、自らの力で開発上市し、グローバルで販売する」ことがどれほど難しい事かなど、説明する必要もないことでしょう。大手の医薬・医療機器メーカーですら極めて長い時間と、極めて多額の費用を必要とすることを、新興バイオベンチャーが成し遂げようとしていること自体、奇跡とまでは言いませんが、極めて稀なことです。

 

それを成し遂げようとしている事実を高く評価することに、ホルダーの一人としてためらいは感じません。もちろん最終的な評価は、売上が十分な額になり、営業黒字を達成して初めて可能となりますが、それでもそれに向けて大きな期待を抱ける状況にはなっていると思われます。

 

2019年度下期の見通し


➢ 欧州

• 消化器内視鏡領域でフジフイルムを通じた販売を本格化

• その他の領域(放射線性直腸炎内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)等)や ロボティクス向け用途の深耕

• 次世代止血材の臨床試験準備の進捗

 

「欧州において一番大きいのは販売である。富士フイルムが販売を開始、また質の良いリードを大量に確保している。それを確実に売り上げにつなげていき、さらに高い売上の伸びを記録する。」

「そのために、内視鏡の周辺領域や、内視鏡をはなれたロボティクスや腹腔鏡への広がりも進めていく。」

「次世代止血材の臨床試験の準備も着々と進めており、何らかの進展を出す。」


➢ 米国

• PuraSinus(癒着防止兼止血材)の販売開始

• PuraDerm(創傷治癒材)の美容整形領域への適応拡大

• PuraStat(内視鏡用止血材)の承認申請を目標としたデータ収集


➢ 日本

内視鏡用止血材の承認審査の進捗

内視鏡用粘膜下注入材(局注材)の承認申請に向けた準備

• siRNA医師主導治験の再開


➢ その他

• オーストラリアにおける新領域(内視鏡、腹腔鏡)への進出

• カナダにおける販売の開始

 

ここでは「ロボティクス」という言葉に注目したいのですが、当然ながら頭に真っ先に浮かぶのは「内視鏡手術支援ロボット『ダヴィンチ』」です。腹腔鏡手術においては、ますますこのようなロボット支援システムの使用が一般化していくことでしょう。その際の止血は、現時点においては電気メスによる焼灼が中心となっています。

焼灼による止血の危険性が、消化器内視鏡におけるそれと同様だとすれば、PuraStat の活躍の場もまた、同様に存在すると言えるでしょう。

 

 今、ホルダーの目には「止血材」を内視鏡領域で販売を行っている 3-D Matrix の姿しか映っていません。しかし今回、視界の向こうから、再生医療領域から PuraDerm が美容整形領域で使用される姿が近づいて来ました。さらには、DDS 領域においても、霞がかかっていた TDM-812 の姿も再びはっきりと見えようとしています。

 

さあ『視界の彼方』では何が起きているのでしょうか。まだ見えない場所 (Beyond the Horizon)で起きていることに期待できる企業。それこそが、3-D Matrix の大きな魅力だと私は思っています。